コダマ司法書士行政書士事務所 スタッフブログ

2014.06.09

【ヒロセ】 成年後見業務のお手伝いをさせていただいて感じたこと

今日の更新担当は1周しまして事務スタッフのヒロセです。

所長の記事にもある通り、当事務所では成年後見(成年後見・保佐)業務にも力を入れております。そのため、事務員のヒロセも、所長の業務の一端のお手伝いをさせていただく機会があります。

その中でいろいろ世間とのギャップを感じることがありますので、その感じたことを「そこはかとなく書きつく」(あれ、『徒然草』の一節ってこれで合ってたかな?怪しげな記憶で書いています。)ろうと思います。

私がお手伝いをさせていただいて一番に感じるのは、一般の方は、「成年後見人って被後見人(「後見人が付いている人のことを専門用語でこのように言います。)に関わることだったら何でもできるんでしょ?」という認識が強いように思います(実際にはできることの限界が多いのです)。それは、以下のような場合に感じます。

具体的には、①被後見人の方が入院する場合に後見人に「保証人になってほしい」と言われたり、②治療を要する場合に医療行為に後見人が同意してほしいといわれる場合です。

結論から申しますと、後見人は、①・②いずれについても職権の範囲外であり、「できない」ということになります。

おそらく、保証人になってくれと言われるのは、身元の引受けだったり、本人の容体が急変した場合の連絡先の確保や、財産上の不安などがあるからでしょうね。

しかし、そもそも、成年後見制度とは、病気や精神上の障害により判断能力が不十分(あるいは意思表示をすることが著しく困難)となった方に代わり、「契約等の法律行為」財産行為といいます)を行ったり、またはそれに同意を与えることで判断能力を補い、被後見人の方の権利を守る制度です。その考え方の根底には「ノーマライゼーション」(判断能力の程度に応じて、その能力のある範囲では普通の判断能力がある人と同じように扱うべきとする考え方)や「(被後見人の)自己決定権の尊重」といったものがあります。

なので、成年後見人は、後見人に代わって、あくまで「後見人の財産」から入院費などの諸費用を支払うことはできますが、保証人となるまでの義務や権利はないのです。したがって、先方の不安なお気持ちは十分に理解できるのですが、「後見人(当事務所の場合は司法書士の所長)は、保証人となることはできません」とお答えせざるを得ないのです。

次に、医療行為の同意についても、上記の制度の考え方からすれば、後見人が代わりに同意をすることはできないことになります。(ただし、既に方針が決まった医療行為につき、通院・入院等の医療契約を締結することはできます。)

なぜなら、医療行為については、「どのような治療を受けたいか」という点で、医療行為を受ける患者(この場合は被後見人)の考え方が十分に尊重されるべき場面であり、自己決定がまさに尊重される場合であるからです。

確かに、意思決定ができなくなったとしても、被後見人の方が同意するのももっともだなと推定される場合(推定的同意がある場合)については、後見人が代わりに同意することはできるというような考え方はあるようです。

しかしながら、成年後見人の事務は先述の通り、財産管理(契約など)が主であり、手術など本人の体に手を加えるような医療行為を行う場合については、本人に代わって同意をする権限は成年後見人にない、というのが一般的な見解です。

したがって、このケースでは、被後見人本人がもはや意思表示をすることができないというような場合、自分で意思決定をすることは非常に困難であるので、被後見人の方にご家族がいれば、ご家族に同意していただくことになるでしょう。

よって、この場合も、「後見人が本人(被後見人)に代わって同意をする権限はありませんので、後見人である所長が同意を代わりにすることはできません。」と説明することになります。

また、③被後見人の方が万が一お亡くなりになった場合で、その方に身寄りがいらっしゃらない場合、成年後見人に身元の引受けなど死後の事務を行ってもらえないかとお問い合わせを頂くこともあります。

③の場合について、結論から申しますと、「後見人の権限」としてはできないということになります。ただし、「事実上」後見人がせざるを得ないようなケースもあると十分に思われます。(例えば、緊急のための必要な処分」は、民法の解釈上できるのではないかと思います(民法874条による654条の準用))

というのも、成年後見人は、本人(被後見人)が死亡した場合には後見が終了します。本人の死亡により成年後見制度による保護の必要は失われると考えられているからです。(理論的には、成年後見人は法定の代理人に当たることから、代理人一般の代理権喪失事由(民法111条1項1号)に該当する、とか、委任関係が委任者又は受任者の死亡により終了するという民法653条に求めるのですかね…)

そうすると、被後見人の死後には、成年後見人と被後見人の間では、後見関係が自動的に終了されることにより、成年後見人はもはや「成年後見人」ではなくなりますから、そもそも、後見人だった者は、被後見人の方に代わって、契約をするなどの財産行為を行う権限はないのです。

したがって、残念ながら「後見人の権限」としては行うことができないということになります(ただし、事実上後見人がせざるを得ないケースも十分にあると思うので、明確に「できます」とも「できません」とも言えないのが現状でしょう。)

このように、成年後見人は、社会一般で考えられているよりも「できることには限界がある」というのが実情であります。


これらは、あくまで一例でありますが、後見制度の認知度は社会一般に広まっているとはいえ、このような後見人の法律上の限界についてまだまだ社会一般の方にご理解いただいているとは言えないような状況です。

法制度面においても、特に、医療行為の同意については、被後見人の方に家族がいない場合で、本人に十分な意思決定の能力がない場合に、どうすればよいのかということまでは法律では十分に手当てができているとは思われません。死後事務についても同様です。法の不備といったら法の不備なのかもしれません。法を作る人間も、時の流れに伴い新たに生まれるであろう仕組み(取引形態や社会形態など)について、十分に予測したうえで法を作るわけではありませんので、仕方がないことであるとも思われます。

高齢化も進み、「おひとり様」も増えている昨今、後見制度が利用される機会は確実に増えると考えられます。これらの問題について、社会としても、法制度としてもどのように解決をしていくのかが、これから後見制度の重要な課題になってくるのではないでしょうか。

以上、終始真面目な日記でした。たまにはこんな日記もいいですよね?(笑)

(※記事を書く上で参考にした文献)
・前田陽一・本山敦・浦野由紀子『リーガルクエスト民法Ⅵ 親族・相続』〔初版〕(有斐閣,2010年)185~195頁
・平田厚『ロースクール家族法』〔第3版〕(日本加除出版,2009年)157~166頁
・第一東京弁護士会成年後見センター編『Q&A成年後見の実務』(新日本法規,2008年)

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